タクシーの運転手の話。「再開発ってのは私はキライだね。特に〇ビルの再開発は盛り場を全部取り壊してまっ平らにして高層ビルだけ建てるものだから夜の客がすっかり減ってしまってね。」「東京のシンボルの東京タワーを見下ろすようなビルを建てるなんざぁ、とんでもない話だよ。」「再開発ビルの名前を言われたってこっちはわからないよ。」・・・と、まぁタクシーの運転手にとって再開発は歓迎すべからざることらしいのである。
それにしても特に東京の再開発は量も規模もすごい。2029年まではこの状態が続くという。あんなに同じ様な超高層ビルをどんどん建てて、テナントはきちんと入るものだろうか。そう、テナントはきちんと入るのである。そして、元のテナントビルが空室になって困っているという話も一部を除いてあまり聞かない。うまく回っているのだろう。
そして東京の街はいつの間にか仮囲いが回されて、元に何が建っていたのかも思い出せない工事が続くのである。

幼い頃に父に連れて行ってもらった映画館や学生時代に住んでいた安アパート。そう言えば、若い頃に友人と議論を交わした喫茶店のあるビルも、青春の思い出が一杯詰まっている元の勤務先の本社ビルも建て替えられてしまっている。懐かしい建物のなくなった空間やそこに見慣れないよそよそしい建物を見た時の気持ちは、残念とか寂しいとかいう感情よりも、そう、青春を一緒に過ごした友人を亡くしたような喪失感。そんな感じだろうか。人のアイデンティティって、思い出によって保たれている部分もあるのではないか、歳を取るとそんな感じを強く持つようになった。そんなとき、自分のアイデンティティに対する危うさを感じるのかもしれない。そうだとすれば、東京に住んだり働いたりしている人々は、いつも共通の思い出を持つ建物を失い語り合う友人を失っていることになる。
どの再開発も公開空地を作って緑を植え、超高層ビルの低層階には商業施設、中層階にはオフィス、高層階には高級ホテルや超高級住居を配して、ビルのセキュリティーを厳格にし、入退館のためのカードを首にぶら下げた人々が行き交っている。
経済合理性の結果としての活動なのであろうが、再開発って、本当に便利になっているのだろうか?人を幸せにしているのであろうか?
タクシーの運転手と話をしながら、思わずうなずいている自分を見出すのである。
株式会社不動産経営ジャーナル「週刊不動産経営」より転載(許諾済)

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