継続賃料の評価は不動産鑑定評価基準で定義・手法が規定されているものの、同一物件・同一条件でも不動産鑑定士によって評価額が大幅に乖離する問題が実務上散見される。特に借地借家法に基づく賃料増減請求訴訟で用いられる鑑定については、法曹実務家から「鑑定士による評価額の乖離が大きく不明瞭」との指摘を受けている。継続地代の裁判実務では、基礎価格の算定基準を更地とするか底地とするかがしばしば争点となる。
結論から言えば、基礎価格は更地・底地いずれを基準としても、手法の適用が適切であれば問題ない。一方のみが正解ということはなく、不動産鑑定評価基準も特定方法を明記していない。過去の裁判実務でもいずれの方法も採用されており、両論あり得る中で採用判例のみを列挙しても一般論としての意味はない。

ただし、実務的には底地基準による適切な評価は極めて困難であり、事実上不可能である。
利回り法の理論的要請として、更地基準の基礎価格には更地事例による継続賃料利回りを、底地基準には底地事例による利回りを適用すべきことは必然である。比較条件の同等性は不動産鑑定評価でも証券分析論でも当然求められる。「アップル・トゥ・アップル、オレンジ・トゥ・オレンジ」の原則が示すように、同等条件の比較によってのみ適正評価が可能となる。更地事例から底地の継続賃料利回りを算出することは論理的に不適切である。
したがって底地基準で基礎価格を算定するには、底地の取引事例を収集し適正に調整・評価する必要がある。しかし、更地と比較して圧倒的に少ない底地取引事例のうち、近隣地域・同一需給圏内の評価に適切な規範性ある事例を十分に収集分析することは実際上極めて困難である。
仮に事例収集できない場合、更地価格に「底地割合」を乗じて算定するほかないが、「借地権割合」自体が相続税路線価算定で概括的に設定された簡便法による大雑把な数値にすぎず、個別事情を加味しない底地価格では実態を反映しにくい。
さらに、底地の継続賃料利回り査定は輪をかけて困難である。継続地代取引事例の収集が現実的に困難なうえ、仮に収集できても、権利金・敷金の有無、契約期間、更新回数、更新料・建替承諾料の有無など多岐にわたる賃貸条件の詳細を把握し、事例ごとに調整して適切に利回り算定することは現実的に不可能であろう。
もちろん、事案によっては底地基準で適切に基礎価格算定できる場合があり得ることは否定しない。ただしその場合、鑑定評価のアカウンタビリティとして参照事例を具体的に列挙し事情補正を説明すべきである。事例収集と適切な事実関係把握・調整ができないなら、更地基準で算定する以外に方法はない。
近傍同種・同一需給圏内の事例収集が困難な事案では、更地基準による基礎価格算定が実務上一般的であることは論を待たない。浅学ゆえ批判は甘受するが、不動産鑑定業界の実務的混乱整理の一助となれば幸甚である。
株式会社不動産経営ジャーナル「週刊不動産経営」より転載(許諾済)

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