弊社は札幌圏を中心に北海道全域にわたり不動産鑑定評価を行っている鑑定事務所です。おそらく弊社だけではないと思われますが、ここ数年、賃料(地代、家賃)に関する相談がとても多くなってきました。
この背景は、貸手サイドから見ますと、地価公示、地価調査、相続税路線価発表のたびに、都心部の地価上昇が話題となり、更に建築費の高騰と相まって、建築当初の修繕計画より修繕費も高騰しており、負担調整措置があるものの公租公課も上昇しており、地価や物価がこれだけ上がっているのだから、地代も家賃ももっと上がっているはずだと考えるためでしょう。
一方、借り手サイドから見ますと、こんな古い建物なのに何故家賃が上がるのか、大家が修繕義務を果たしていない、同業他社の参入で売上げも利益率も伸びていない、水道光熱費などの物価や人件費も上昇している、家賃を上げられたらたまらないと考えるためでしょう。

オフィスや住宅ならば、家賃が高いとか、設備や管理などの条件に不満があるなら、出ていけばいいだけの話ですが、一棟貸し、特にスケルトン貸しの物件ともなると、貸し手も借り手も多大な投資をしており、移転も容易ではなく、お互い引くに引けない状態となります。
契約当初からの合意とはいえ、そもそも家賃が安い、高いというケースもあります。親がどういうわけか低廉な家賃設定をしていて、相続人からどうにかならんかという相談を受けたこともあります。契約当初の不合理をどこまで踏襲するのか。
継続賃料の評価は、不動産鑑定士にとってはめんどくさい部類の評価で、継続賃料の依頼は受けないという鑑定士も存在します。
家賃の場合、貸し手からの依頼だと、収益分析法の適用は困難です。公開情報からいろいろ推定はしてみるものの、対象不動産固有の個別的条件があり、評価書に記載できるほどの信頼性はなく、記載したら借り手から違いますと一蹴されてしまうでしょう。
争訟案件で、賃貸事例比較法を適用していない評価書も散見されます。実務上、実施しないのが普通?という鑑定士もいて、確かに資料の入手や比較が困難なケースは多いです。
旧法による地代・家賃の改定の依頼をされても、今は定期借地権、定期借家権の契約が多いため、賃貸事例の契約書や覚書を入手できるわけでもなく、どこまでが建物の契約なのか駐車場の契約なのか、設備の修繕の負担はどうなっているのか、確かに賃貸事例を収集しても比較は困難です。
しかしオフィス、住宅、店舗、倉庫など、病院や老人ホームでさえも賃料相場というものがあります。賃料相場があるということは、土地の評価で言うところの標準的な画地の価格水準に該当するものが存在しているのではないでしょうか。
事業用不動産においては、たとえ用途が異なっていても商圏内のマーケット情報は重要であり、場所にもよりますが、ビル街の中の病院なら、病院の賃貸事例でなくても、オフィスの事例でも参考にはなるのではないでしょうか。
過去数々の困難に直面しましたが、賃料相場をつかむべく努力しており、関係者が納得できるような、説得力のある賃料評価を目指しているところです。
株式会社不動産経営ジャーナル「週刊不動産鑑定」より転載(許諾済)